これまでいろんな情報を探す中で、このコラムにたどり着いてくださったこと、ありがとうございます。
きっとここに来るまで、いろんな痛みや苦しみを耐え、悔しさや悲しみに打ちひしがれることも多かったかもしれません。どうしたらいいのかわからない。身内にも友達にも打ち明けられず、誰に相談したらいいのかもわからない。そんな方もいらっしゃるかもしれません。
もしかしたら、被害を受けたのはずいぶん昔のことかもしれません。それでもあきらめずに勇気をもって、ここにたどり着いてくださったこと、本当にありがとうございます。
苦しく辛い日々をすごされてきた方もいらっしゃるでしょう。本当にこれまでよく頑張ってきましたね。でも、もう一人で抱え込むのはこれで終わりです。
まず、最初にお伝えしたいのは、被害者は何も悪くないという事です。性被害を受けたのは、自分に何か落ち度があったからではありません。すべての責任は加害者にあります。
トラウマから回復するためにできることはたくさんあります。これからお伝えすることを少しづつでもいいので実行してみていただきたいなと思います。
性被害のトラウマは治療が可能
もしかしたらこれまで被害の記憶に付きまとわれて自暴自棄になったり、危ない行動をとって嫌なことを忘れようとしたり、心のどこかにしまい込んで蓋をしてなかった事にして、我慢してこられたかもしれません。
そんな被害者の方に知ってほしいのは、性被害のトラウマは治療が可能な心の傷だということです。治療することで嫌な記憶から解放される日は必ず来ます。
このコラムでは、性被害のトラウマから回復するためにどんなことができるのか、どんな治療法があるのかについてお話しします。
性被害のトラウマからの回復のステップ
性的トラウマからの回復には個人差がありますが、以下に一般的なステップをいくつか示します
① 安全な環境の確保
性被害のトラウマからの回復の大前提として、安全でサポートのある環境を整えることが大切です。今だに被害を受けうるような環境にいるのであれば、そこから離れて安全な環境を確保しましょう。
もし一人では安全な場所の確保が難しい場合は、性犯罪・性暴力被害者のためのワンストップ支援センターという性犯罪・性暴力に関する相談窓口に連絡してみましょう。この支援センターは、産婦人科医療やカウンセリング、法律相談などの専門機関とも連携していますので、特に誰にも相談できない場合などは、まずここに連絡していただきたいなと思います。
海外在住の場合は、住んでいる国や地域に性犯罪・性暴力被害者のためのホットラインや施設がないか調べてみましょう。英語圏であれば、性被害ヘルプライン(Sexual Abuse Helplines)、クライシスホットライン(Crisis Hotline)、レイプクライシスセンター(Rape Crisis Center)、家庭内暴力クライシスサービス(Domestic Violence Crisis Service)、女性のためのシェルター(Women’s Shelter)といった機関があります。また、現地の言葉が話せない場合は、友人や知人に相談したり、それが無理な場合はその国にある日本人大使館に連絡してみることもおすすめします。
②自分を許し、優しさと思いやりを持って接する
安全な環境が確保されたら、まず行うべきは自分へのセルフケアです。性的トラウマを経験した人々は、しばしば自分を責めたり、起こったことに対して罪悪感を感じるかもしれません。でも被害者は何も悪くないです。悪いのは加害者です。だからこれ以上自分を責めるのをやめて、これからは傷ついている自分に対して思いやりと優しさをもって接してあげましょう。それが回復の第一歩です。
③セルフケア
十分な睡眠はとれていますか?食事はできていますか?体の健康を保つことが、心の健康を回復するには大切です。もし食欲がなかったりやる気が起きなかったり眠れない日が続くようであれば、医師やカウンセラーに相談することをお勧めします。
軽い運動や友達との会話など、楽しめたりリラックスできることを積極的に行いましょう。よく眠り、おいしいものを食べ、楽しいと思うアクティビティをすることが、回復の促進と心の健康をサポートします。
回復が思うようにいかないこともあるかもしれませんが、回復への道のりは人それぞれなので、焦らずに疲れたら休みをとり、ゆっくり自分をケアしましょう。
心身共に回復し気持が落ち着いてきたら、仕事や学校に行くなど普段の生活に徐々にもどしていきましょう。ただし無理は禁物ですので、負担を軽くできるような方法を考えてみましょう。
④ 専門家のサポートを受ける
性被害によっておこる心の傷を「トラウマ」と呼びます。トラウマを経験すると、その後に何らかのきっかけで激しく感情的になったり、恐怖感や無力感、不安や気分の落ち込みを体験します。人によっては眠れなくなったり、日常に現実感がなくなったり、悪夢やフラッシュバックを体験することもあります。これらの症状は一時的な場合もあれば、長期間に及ぶこともあり、症状の程度によってはうつ病や心的外傷後ストレス障害 (PTSD)と診断される場合もあります。
トラウマから回復するには、専門家のサポートを受けることが必須です。人に話したくない。なかったことにしたい。思い出したくないと、起こった経験を人に話すことを躊躇する方もいるかもしれません。しかし、忘れようとしたり無かったことにしても、心の傷は形を変えて自分を苦しめることになります。つらい気持ちや不安を一人で抱え込まず、信頼できる専門家に相談してみましょう。
精神科や心療内科のトラウマケアでは、心理療法のツールやテクニックを使って、トラウマからの回復を促します。心理臨床の手法は日々進歩していて、現在ではたくさんのトラウマ治療の方法があります。代表的なものには、EMDR(眼球運動再処理と統合療法)、EFT(感情開放テクニック)、Somatic Experiencing(センサリモーター・アプローチ)、Exposure Therapy(暴露療法)などがあります。
ただし、注意していただきたいのは、心理カウンセラーや心理療法士であればだれでもトラウマを扱えるわけではないという事です。中にはこれまで精神科や心療内科を受診したけれども、ただ辛い記憶を思い出しただけで治療の効果を感じられなかったり、嫌な思いをした方もいらっしゃるかもしれません。そういう場合は、カウンセリングやセラピーが合わなかったのではなく、カウンセラーや心理療法士と合わなかった可能性が大きいです。ですから事前に情報収集をして、トラウマケアの専門家やトラウマ治療に関する経験とスキルのあるカウンセラーやセラピストを選ぶのが、回復への近道です。
あなたを助けてサポートしてくれる人は必ず見つかります。これまで治療に効果を感じられなかった場合でも、希望を捨てずに新しい治療者や治療法を試してほしいと思います。
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⑤ 身近なサポートシステムの構築
身近な人が心身をサポートしてくれるほど心強い事はありません。辛い時は一人で頑張らずに、家族や友人など周りの人に支えてもらいましょう。少し落ち着いてきたら、性被害サバイバーのサポートグループなどにも参加してみてもいいと思います。同じような経験に共感してサポートしてくれる人々との関係を築くことで、回復が促進されます。
被害を受けた子どもへの対応の仕方
性被害を受けたお子さんへの対応についても、基本は同じプロセスを踏みます。もっと詳しい内容については、別途お伝えしていく予定です。
被害を受けたお子さんをサポートする立場の方へ、まずお伝えしたいのは、どんな子どもでも逆境から立ち直る力を持っているという事です。しかるべきケアを受ければ、トラウマから回復することは可能です。ですから自分を責めたり子どもを責めたりせずに、専門家の手助けを借りながら希望を持ってサポートしましょう。
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まとめ
性被害にうけたからといって、被害者には何の非もありません。しかし被害者は「恥ずかしい」「知られたくない」となかなか被害を届け出たり、人に話したりできずに泣き寝入りしてしまうことも多いのも事実です。
しかし、性被害とは交通事故以上の破壊力で被害者のセルフアイデンティティを揺らがす大きな出来事です。交通事故に会って病院に行かない人がいないように、性被害を受けた時には専門家の治療をうけることが回復への近道です。今では、様々なトラウマ治療の方法が確立していますので、安心安全な場所での治療が可能です。ぜひ一人で抱え込まずに、周りの人のサポートを受けていただきたいと思います。
私の方でも、トラウマに関するカウンセリングを行っています。もしどこにも相談できないのであれば、まず無料相談においでください。