私たちが今の家に引っ越してきてすぐに、お向かいに住んでいた家族と知り合いになりました。何度か行き来をするうちに、次男坊はポケモンゲームの話などで盛り上がった一つ年下のA君と友達になりました。
A君は次男にとっては、はじめてできた「親友」と呼べるとても仲のいいお友達。知り合ってからはほとんど毎日のようにお互いの家を行ったり来たり。
このA君、我が家に来るたびにカーテンを引っ張って壊したり、二回のバルコニーからおもちゃを投げたりおしっこしたり。。。バルコニーの柵を壊しても知らん振りしていたり。。。と、ちょっと大人びていて知能犯。元気で好奇心旺盛な次男とは性格は違いますが、「馬が合う」というのはこういう関係なんだろうなあっていうくらい、二人でいるときはいつもくっついて、おゃべりしながら遊んでいるのです。それはとても微笑ましいものでした。
突然のお別れ
でも、A君はスクールホリデーの最後にお父さんのお仕事の関係でイギリスに引っ越す事が決まっていたんです。引っ越しの前の週にA君がこういいました。
A君「僕はもう来週にはイギリスに行かなきゃならないんだ。」
次男「え~?次はいつ帰ってくるの?」
A君「ママは2年位かなって。」
次男「ふう~ん」
たあいのない会話。なんだか、理解したのかしてないのか。。。
でも数日後、次男が私に涙目でこういうのです。
「ママ、A君もうすぐイギリスに行くんだよ。」
「次に帰って来ても同じ家ではないんだって。」
「いつ帰ってくるかもわからないんだって(泣)」
子どもながらにその小さなハートでちゃんと受け止めていたんだな。と思って私も切なくなってしましました。悲しむ次男に私ができることは、その悲しみに寄り添う事だけ。
「A君がいなくなったら寂しくなっちゃうね。ママも寂しいよ。」
「せっかくお友達になれたのに、残念だったね。」
次男は、こくりとうなずきながら必死に涙をこらえています。
私は中学一年の時に、父の仕事の関係で生まれ育った福岡から熊本へ引越ししました。
引っ越すときは、友達とは「きっとまた会えるよ!」ぐらいの軽い気持ちで、ろくに友達にお別れのあいさつもせずに、バイバイ~!って手を振って分かれました。
小さな住宅だったけど年の近い子供たちが多く、毎日誰かしら見つけては、元気に外で遊んでいた幸せな子供時代でした。今でも一日中遊んでいた公園や野原、自転車を乗り回した場所の記憶は私の心に残っていますが、結局その日以来幼馴染の誰とも会っていません。小学生のころを共にすごした幼馴染がいないという喪失感は、今でもわたしの胸にぽっかりと空いた穴として残っているような気がします。
子どもだから、引っ越してもまた新しい友達ができるから大丈夫。なんていうのは大人の勝手な言い分です。子供だって別れは悲しいし、喪失感を抱えながら新しい土地に順応していくのです。
お別れの準備
でも私は親として、次男のために何が出来るだろうか?と考えました。やはり、彼の気持ちに寄り添ってあげること。そして「お別れ」するという儀式を行って、彼の心の中に一つのけじめをつけてあげる事かなと思いました。
そこで次の日、私は次男をつれてA君にあげるフェアウェルのプレゼントを見つけに行きました。そして二人が一緒に写っている写真を集めて、二人で写真のコラージュを作りながら、A君との思い出を話しました。そして次男に「A君に、お別れのメッセージを書いてみたらどうかな?」と提案してみると、次男は急いで自分の部屋へ行き、画用紙になにやら絵を描いてきました。
そこには二人の小さな男の子と、真ん中にはハートが、そしてその周りには木々や家が描かれていました。二人で遊んだ日々をイメージして描いたのでしょう。そこに自分とA君の名前を書くと「あげてくる!」といって、もう日も落ちて暗くなっているのに、お向かいへと走っていきました。
プレゼントやカードを渡したらすこしは気持ちが落ち着いたみたいで、笑顔が戻ってきました。
お別れの日
スクールホリデー中はほぼ毎日一緒に遊んでいた二人。時には言い合いやケンカもするけど、私から見ても、本当に良い友達でした。
最後の日も、二人はいつもどおりおしゃべりしたり、時にはけんかをしながら、せわしなくお互いの家を行ったり来たり。夕方にはスクーターで公園へ行ったりと、いつもどおりの一日をおくりました。
でも、A君が家に帰るととたんに次男はこういうのです。「A君、今日でいなくなっちゃうね。僕本当に悲しいよ。。。」
大切な人が突然いなくなるのは6歳の子どもだってやっぱり辛い事。それをこの子なりに、一生懸命がまんしているけなげさと、次男の愛情深さを見た気がしました。最後に空港へ向かうタクシーに乗り込むA君家族を最後まで見送って家に戻った次男は、いつものようにブロックで遊び始めました。
ひとしきりブロックであそんだところで、突然、「ママ、もうA君に会えないね。僕とても悲しいよ。」と泣き出し始めました。大粒の涙がポロポロ。だんだん泣き声が大きくなってもう、自分でも止められないくらい。ああ、今までガマンしてたんだな。つられて私ももらい泣き。
いつかは、名前すら思い出せなくなるのかも知れないけど、今、そのだいすきという気持ちをずっと覚えていて欲しいな。こんな風にお互いを思い合える親友にこんなに幼い頃に出会えたという経験は、ほろ苦い別れの記憶とともにきっと次男の人生をもっと深くて暖かい物にしてくれると思います。